【急成長の裏側】前年比200%、取扱高165億円を叩き出したテレシー川瀬氏に学ぶ「本質的合理主義」とマネジメント哲学
「クライアントの利益にならないと判断すれば、CM出稿の依頼であっても『やらない方がいい』と本気で断ります」 ──。自社の売上を最優先する営業 of 常識から見れば、およそ信じられない言葉を平然と言い放つ経営者がいる。株式会社テレシーの代表取締役社長、川瀬智博氏だ。 東京大学を卒業後、電通で延べ200社以上のメディアプランニングを統括してきた、まさに「テレビCM×データ」の第一人者。彼が立ち上げから率いてきたテレシーは、2025年度において前年比200%超えとなる取引高165億円を叩き出し、広告業界に旋風を巻き起こしている。 圧倒的な実績の裏側にあるのは、小手先の社内政治を一切拒絶し、徹底的に顧客の追求にのみコミットする「冷徹なまでの合理性」。その一方で、大学時代にゼロからサッカークラブを立ち上げた経験に裏打ちされた、メンバーへの「熱い魂」も同居する。 一見トレードオフとも思える「高いメタ認知力」と「圧倒的な行動力」をなぜ両立できるのか。事業成長の本質と、組織が死なないためのシビアなマネジメントの極意に迫った。 聞き手:久保田 剛史(株式会社ExSeed 編集長)

5年で取引高165億円。運用型テレビCMで急成長を遂げるテレシーの現在地
━ テレシーは近年、広告業界の中でも突出した急成長を遂げています。まずは現在の事業規模や、川瀬さんご自身のキャリアの原点について教えてください。
現在、業務委託を含めて約50名ほどの組織ですが、2025年度の取扱高は前年比200%を突破して165億円に到達しました。非常に大きく伸ばすことができています。
私のキャリアの原点を少しお話しすると、実は大学時代に、日本初の大学を母体とするプロサッカークラブを作ろうと、ゼロからクラブを立ち上げた経験があります。本気で日本のスポーツ文化を変えたくて、本当は官僚になって法律から変えようとすら考えていました。ただ、民間から事例を作って世の中を動かした方が早いと気づき、縁あって2013年に電通に入社しました。
電通ではテレビの買い付け部門に配属されて、3年半ほどテレビ局と向き合う仕事を泥臭くやらせてもらいました。その後、データやプランニングの領域に関わるようになりました。
当時、2015年頃はスタートアップの資金調達が盛んで、サース(SaaS)バブルの前夜のような時代でした。シリーズBやCのベンチャー企業が、何億もの資金を持ってテレビCMをやろうとしていた。でも、電通という大企業からすると、1億や2億の予算を動かすお客様というのは、実はそこまで大きく扱われず、組織がスピーディーに動きづらいという構造がありました。
しかし、これからの日本を支えていくスタートアップがここで成長を止められたら、日本自体が終わってしまう。だったら、その領域に特化して、どこよりも深いノウハウを持って成長を支援する会社が必要だ、と。そう考えて電通在籍中から事業構想と戦略立案を行い、出向する形で立ち上げに参画。2020年のテレシー設立とともに取締役に就任。2021年に取締役COO、2024年4月に代表取締役社長執行役員となりました。
究極の顧客視点:「やらない方がいい」と言い切る徹底したギバー精神
━━ テレビCMは「一度打ったら効果検証が難しい」と言われがちですが、テレシーがここまで顧客に選ばれ、リピートされ続ける理由は何なのでしょうか。
テレビCMを全案件新規で獲得しながら、年間継続率60%を維持しています。業界の構造上、テレビCMは効果が出なければ翌年の発注につながらないケースが大半です。それにもかかわらず60%が継続する。これが、我々の顧客視点の徹底を、最も端的に示す数字だと思っています。
なぜこれが実現できているかというと、我々はどこまでも「相手視点」を徹底しているからです。よくある広告会社のように、依頼されたからといって、ただ言われた通りに枠を売るようなことは絶対にしません。私自身、自分がお客様の代表、あるいはCMO(最高マーケティング責任者)だったらどう意思決定するか、という憑依レベルの相手視点で常に考えています。
極端な話をすると、クライアントから「テレビCMをやりたい」と言われても、費用対効果やタイミングが合わない、期待値が高すぎると判断したら、「今は絶対にやらない方がいいです。同じお金があるなら、別の施策に投資してください」と平気で突っぱねます。
ビジネスですから、目先の自分たちの売上だけを考えれば、言われるがままにCMを出稿してもらった方が得に決まっています。しかし、そんな「経済学的合理主義」だけで動いていたら、大きな信頼は得られません。お客様の利益にならないと分かっていながら提案を続けて一時的に売上を作っても、効果が出なければ二度と発注は来ない。短期的な売上を捨ててでも、その時にお客様にとって「最も合理的な選択」を提供し切る。これが結果として、中長期的な信頼関係につながります。
我々がテレビCMと効果分析の領域に特化しているのは、その領域で「一騎打ち」を仕掛けるランチェスター的な弱者の戦略として引き合いを獲得するためです。しかし、入口の専門特化が継続率を生むのではありません。特定領域に絞り込むことで課題の解像度と支援の質が上がり、クライアントの事業に本質的な価値を提供できる。出口はあくまで、本質的課題の解決です。

「社内政治」はやらないが、「顧客の社内政治」は泥臭く介入する理由
━━ 「社内政治は絶対にしない」と公言されていますが、その一方で「顧客の社内政治には泥臭く介入する」というのはどういうことですか?
言葉の通りです。僕は自社の社内政治にはエネルギーを使いません。そんなものはやる必要がない。しかし、クライアントの社内政治は、できる限り入り込んでサポートします。
テレビCMのような何千万、何億という予算を動かすプロジェクトでは、クライアント企業の現場担当者の方が、社内の上層部や他部門との調整にものすごく苦労しているケースが非常に多いのです。現場は「やりたい」と思っていても、上層部を納得させるロジックがないとか、社内の人間関係のしがらみで決裁が降りないといった状況です。そのような時に、我々が外側からその担当者の「社内評価を上げるための材料」を徹底的に仕込みます。
現場の方の社内評価が上がるようなフィードバックを上層部へ伝えたり、彼らが正当に評価されるような数値をレポートに組み込んだりします。時には、現場の方々と個別にご飯に行って、社内のリアルな不満や悩みをヒアリングすることもあります。
なぜそこまでやるかというと、クライアントの社内で起きている「情報のブレ」を解消しないと、我々への依頼の前提自体が狂ってしまうからです。上層部と現場の認識がズレたまま、間違った前提の依頼が我々のところに降りてきたら、いくら最善のプランを提案しても最終的にひっくり返されて全員が不幸になります。だから、クライアントの社内調整をフラットに対話ができる環境へ変えるために、こちらから情報提供含めて社内関係性構築を仕掛けに行きます。
自分自身が生き残るための社内政治は排除しますが、クライアントの事業を勝たせるための政治調整には、いくらでも泥をすする覚悟で介入します。それが本当のパートナーだと思っています。
モチベーションを削ぐ「予算」という言葉の排除と、シビアな「期待値調整」
━━ 社内政治をやらない代わりに、組織を動かす上で最もコミットしていることは何でしょうか。
自社において徹底しているのは、小手先の調整を排除した「期待値調整」の精度を高めることです。
多くの会社では、あえて低めの予測を出しておいて、後から「上振れしました!」と報告して評価を得ようとする小手先の調整が横行していますよね。僕はそのようなノイズを排除します。メンバーには、上振れも下振れも含めた「正確な予測」を出すことを求めます。ブレる要因が何個あって、それぞれの確率がどれくらいなのかを、ど真ん中の数字で伝える。嘘偽りのない正確なデータを共有し合うからこそ、お互いにフラットな信頼関係が生まれ、何が起きても迅速に次の手を打てる環境が構築されます。
それと、トップラインにおいて「予算」という言葉を社内で1回も使ったことがありません。すべて「目標(ターゲット)」と呼んでいます。世の中の営業会社によくある、「前年が1.2倍だったから、今期もなんとなく1.2倍ね」みたいなロジックのない予算の決め方は、不合理極まりないと考えています。そんな根拠のない数字を押し付けられたら、メンバーのモチベーションは下がるに決まっていますよね。
我々のビジネスは労働集約型の側面もあるので、1人あたりの適正な売上や稼働の限界値はロジックで弾き出せます。だったら、人員計画のプラスアルファに見合った、合理的な目標を設定すべき。ロジックが通っていない理不尽な数字で縛るのをやめるだけで、組織は見違えるほどフラットに、自律的に動き始めます。
マネジメントの覚悟。感謝と称賛を使い分け、プロフェッショナルな組織を作る
━━ マネジメントや人材育成においては、どのようなスタンスで取り組まれているのでしょうか。かなりシビアな一面もあるとお聞きしました。
マネジメントに関しては、合理的、かつシビアに取り組んでいます。よく部下を「モチベーションが高い/モチベーションが低い」「能力が高い/能力が低い」の4象限で分ける話がありますが、僕は「モチベーションは低いけれど、能力が高い(伸び代がある)」部下に最もエネルギーを注ぎます。
一番やってはいけないのは、多くのリーダーが陥りがちな「モチベーションが高いけれど、能力が低い」部下に付き合って、付きっきりで面倒を見てしまうことです。これをやると、組織全体の基準が下がって、最終的に組織が死んでしまいます。冷酷に聞こえるかもしれませんが、人が適切に入れ替わらないと、本当に優秀な人材は入ってこないし、残らない。組織の成長のために、個々人への期待値は妥協せずにシビアに詰めるのが、経営者としての覚悟です。
その一環として、僕は社内で「感謝」と「称賛」を厳格に使い分けています。メンバーが「当たり前のこと」をやってくれた時は、感謝を伝えます。「ありがとう」と口に出す。しかし、称賛はしません。なぜなら、普通の成果に対して称賛してしまうと、そこが組織の「基準(スタンダード)」になってしまうからです。称賛するのは、本人が高い期待値を超えて、これまでにない挑戦をした瞬間です。
この使い分けの本質は、組織の「行動基準(スタンダード)」を誰がコントロールするか、という問題です。称賛の対象が基準を決める。ゆえに、日常的な職務遂行への称賛は、組織の期待水準を恒久的に引き下げるトリガーになってしまう、ということです。 サッカーの構造も全く同じです。ピッチの上では、監督の指示を待つ時間なんてない。全員がその瞬間瞬間に、自分で状況を判断して動く「リーダー」にならなければいけない。ミスを恐れてチャレンジしない人は必要ないし、逆にナイスチャレンジがあれば全員で称賛する。冷徹なまでの「合理性」を持って組織の仕組みを作りながらも、ピッチに立つメンバー一人ひとりとは、プロフェッショナルとしての「熱い魂」でぶつかり合う。この両輪が高度に噛み合った時、組織は前年比200%を超えるような成長を実現できると確信しています。

川瀬智博(かわせ・ともひろ)氏
株式会社テレシー 代表取締役 社長執行役員東京大学卒業後、電通に入社。延べ200社を超える企業のメディアプランニングを統括し、テレビCM起点でのPeople Driven Marketingの第一人者として革新的なバイイング手法「Effective Spot Planning (ESP)」の構築に尽力。電通在籍中からテレシーの事業構想に携わり、2020年のテレシー設立とともに取締役に就任。役割整理を経て2021年に取締役COOに就任、2024年4月より代表取締役社長へ就任。2025年度には前年比200%超えの取扱高165億円を達成し、持続的な企業価値向上を牽引している。
インタビュー後記
川瀬氏が繰り返し語る『本質的合理主義』とは、経済合理性の短期最大化ではなく、関係者全員の中長期利益を追求することで、結果として自社の信頼資産と売上を最大化するという思想です。この『本質的合理主義』は、決して経営層だけに閉じられた特権ではなく、すべてのビジネスパーソンが学ぶべき姿勢です。
例えば、根拠なき「予算」を排除し、市場を科学した「目標」だけを追う姿勢や、「モチベーションが低いけど能力が高い部下」にこそリソースを注力するシビアなマネジメント。
一方、短期的な売上を失ってもクライアントの利益にならない広告出稿は「やらない方がいい」と全力で止めるギバー精神や、顧客の社内政治にまで泥臭く介入し、現場の成功を支援する姿勢。
冷徹なロジックを回しながら、胸には熱い魂を宿して戦う 。
そういったプロフェッショナルとしての生き方を、示されているのだと感じました。
20年以上、テレビ番組、ネット動画、出版社など様々なメディア媒体で大型新規企画を立ち上げ、ExSeedに参画。ダイヤモンド社では、『ダイヤモンド・オンライン動画』を立ち上げから牽引。ビジネス領域におけるコンテンツの企画・制作・反響設計までを一貫して担当。テレビ、ネット、出版それぞれの特性を踏まえ、企業や事業の強みを「伝わる企画」に変換する編集力を強みとする。早稲田大学政治経済学部の招聘講師(2024年)。
